サンフランシスコの伝説的ロックバンドをあげよと言われたら、まちがいなくグレートフルデッドになるでしょう。


彼らはオープンソースとかフリーミアムのハシりだと言われています。
なんと彼らは自分たちの楽曲をタダでバラまいていたのです。


そのバラまき方も粋です。彼ら自身が配るわけじゃありません。
通称テーパーという録音マニアに対して、ライブ会場にて録音ブースを用意したのです。
録音テープを売ってもおとがめなしです。









また彼らはビーンズベアーというクマのキャラクターもライセンスフリーとしました。
彼らがライブをすると行商人たちが集まりデッドグッズを売りました。
ファンはデッドヘッズとよばれ、デッドが来る街にはデッドタウンができました。
ライブ会場が楽市楽座になるわけで、まさに神社と同じビジネスモデルです。


他のロックバンドは、ライブこそが宣伝活動であり新譜を作るたびにツアーに出かけました。
ツアーでは儲けがなくてもレコード収益で回収すればいいという考え方です。

デッドたちはそれとは真逆なアプローチでした。
新作レコードのナンバーをやるわけでもなく、コピーを含めたくさんの楽曲を披露します。
二度と同じ演奏がないような即興もやります。

そこに録音する価値が出て何度もライブに足を運ぶ必然性が生まれるというわけ。

デッドから学ぶべき点は、自分たちの顧客にさまざまな役割を与えたことです。
それを自らのビジネスの重要な血液としてまわしました。


マリファナを楽しむひと、
純粋に音楽に聞き惚れるひと、
絞り染めのシャツを売るひと、 
そしてテーパー。

あらゆるタイプのデッドヘッズたちは「ヒッピー」という共通項をもちながら、一人一人が自分なりの世界を楽しんでました。



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この文化はGoogleやAppleにも継承されます。


記事を書ける人には広告収益をあげる手段をわたし、
プログラムを書ける奴らにはアプリで収益をあげる手段を提供し、 
楽市楽座のような世界をつくりあげました。

ファンが金儲けができる環境を用意すれば勝手に生態系ができます。
自分たちの金儲けにならなくても、独自の「文化」を作ることができます。

独自の「文化」といえば、オリジナルすぎて伝説になった代ゼミの講師がいます。



山田弘です。



「庶民のみなさん、こんにちは。山田尊師です。」 

これで授業がはじまります。当時は麻原彰晃がマスコミで騒がれてました。

1990年代の半ば、代ゼミの英語の看板スターといえば、西谷、富田でした。
代々木の講師たちは人気のバロメーターとして「受講者の数」を競っておりました。
授業中にライバル講師をののしったり、 競合しない科目の人気講師と同盟を組んだりします。
そういう大変さが生徒にもよく伝わりました。


それに対して柏に来る講師は、人気商売とはかけ離れてます。
札幌や新潟とかを巡業しているマイペースな講師ばかりでした。 

「ジョニー」はエイトビート古文、
時事問題を話しだす数学、
カルピスを瓶ごと一気に飲み干す物理、
クラプトンを熱く語る現代文、
などなど、 変わった講師のオンパレード。


でもその中で群を抜いていたのが「下々の諸君」「庶民の君たち」といっては生徒をこき下ろす山田弘でした。
パンチパーマのヤクザの風貌で紫のシャツを着た奇人です。 


山田の講義では、文法用語のみならず、発音記号や句読点、 引用符にいたるまですべて彼独自のテクニカルタームが採用されていました。 こうした記号は、「理恵子」だの「あきこ」だの 当時の女性アイドルの名前に置き換えられ、「こういう場合、関係詞の前には必ず理恵子が要るんです」 といった珍妙な説明がなされたものです。

例文を振り返ると、そこに登場したたくさんの人たち、とりわけ女性はすぐに犯され、殺され、しかし運がよいときは香港に売り飛ばされるだけで済んでいました。

比較級・最上級の項目では、男性器が頻繁に登場するし、「俺がレイプした女は俺の母ちゃんだと分かった」というパンクな例文もありました。

必然的に女子生徒の数は回を重ねるうちに減っていきます。
男子生徒であっても、徹底したエロ英文、 生徒のバカよばわりで、山田弘を気に入らない生徒はどんどん逃げていきます。
6月になる頃には元の半分以下になっていました。

山田の授業では、山田弘は教祖様です。生徒には決して容赦しません。
「お前らは、バカなんだから。」徹底的に、お前らはバカ、を強要します。
山田弘は毎回これを一瞬でやってのけます。
「お前らは、どうせバカなんだから、他の参考書は買わなくてもいい。」と言って山田本を3冊買うことが強要されます。

山田弘は、生徒の財布からもお布施をせしめようというわけです。


ちなみにその3冊は、
・1問1解英文法初級問題集
・1問1解英文法中級問題集
・1問1解英文法決戦問題集
まったく売れそうにないタイトルで、著者は山田弘。



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代ゼミの本屋でしか手に入らない代物でした。
授業では生徒にいちいち手をあげさせて、間違うと罵られます。
でもこの本を先まで読んでおけば、それを回避できるように組み立てられていました。

罵られたくないがあまり本を買い、せっせと予習するようになります。

また山田弘は、前回の授業でやったことを、必ず次回にも聞いてきます。
「お前ら。やっぱりバカだなあ。一週間たつと忘れる下等な動物だ。千葉県民はこれだから嫌だ。」
山田弘は、これを罵りたいからやるのであって、生徒たちは罵られたくないから復習をします。

夏季講習や冬期講習も当然、専門の単科を取らされます。
それが私の偏差値を30から80に押し上げた「制空権奪回」シリーズです。


また山田弘は差し入れをせがみます。

「庶民のきみたちは貧乏だからしょうがないけど」なんていいながら。

ある日、私は缶ビールを机に置きました。
予想通り、山田弘は酒を飲みながら授業をします。
「柏にも気が利く奴がいるんだな。」とニコニコ顔になりました。


それ以来、生徒はとりあえずビールを買っていく、そんな習慣になっていきました。
生徒は動物園のエサのように差し入れを教壇に置くわけですが、当の本人は授業がはじまれば教祖様です。


山田弘への差し入れについてはググるとたくさんでてきます。

アイドルやAV女優のポスターを置けば、それらを黒板や教壇に貼って授業を行います。
ビールや煙草ならばそれらを嗜みながら授業を行い、 エロ本ならばそれを読みながら授業を行う、といった具合です。

山田弘は泥酔しても授業で喋る内容はほぼ暗記しており、キッチリと授業をこなします。


浪人といえば、ただでさえ生徒は落ち込んでいます。
たいていの講師は「受験生を励ます」ためのレトリックをつかいます。

それに対して、山田弘は生徒をケチョンケチョンにする、確信犯的なマーケッターでした。
苦しかったはずの浪人時代が「山田弘」で滑稽な経験になりました。あれはあれでサイコーだったと。


最後の授業の一番最後に、しんみりと山田弘は言いました。
「みなさん、もうココには戻ってこないでください。」




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「なんとかサービスはまわっているんだけど、劇的に利用者が伸びない」
「リアルのビジネスをしているんだけど、ITを駆使して集客を改善したい」