イーグルスの「ホテルカリフォルニア」は76年のグラミー賞の最優秀レコードでありまして、現在まで全世界で2000万枚以上を売り上げているそうです。同タイトルのシングルもビルボード1位を獲得しております。


13



この曲はロック史上でも数少ない「歌詞が読まれた曲」といわれております。


「1969年以降、スピリッツは置いていないんです。」とうたい、
「スピリッツ(酒の名前)」と「精神」とかけて、
もうヒッピーの時代は終わったんだよと歌ったのでした。


1969年はウッドストックフェスティバルがあった年です。


では、どんなことが歌われているのでしょうか。
経営者の方は、ホテルの給仕になったつもりで、投資家の訪問客を相手にしていることを想定してみましょう。









このホテルの中庭では、
ならず者のニューリッチは、想い出を心に刻みながら、
過去の栄光から彷徨うスターは、何もかもを忘れようと、
香しい汗を流して踊っている。
(Some dance to remember,Some dance to forget.)


ここには、いつも、ネットバブル、シリコンバレーのボヘミアンがある。
(Any time of year.You can find it here.)


それが天国なのか地獄なのかよくわからない。現実こそが中途半端というわけだ。
(This could be Heaven or this could be Hell.)


彼女のゴージャスだけどひん曲がっている
ティファニーのようなゆがんだ心や、
メルセデスに心を奪われる。
しかも彼女ときたら、セックスフレンドのことを「友達だよ」なんて言っている。
(Her mind is Tiffany-twisted, she got the Mercedes bends.
 She gat a pretty pretty boys,that she call friends. )


ここの人たちはみんなドラッグでもやっているのか?
おれだけ冷静なのはどういうことなんだ。おい、俺を酔わせてくれよ。
酔ってなけりゃ、こんなリスクの高いディールに、大枚の金をはたけないよ。


この男が「ワインはないのかい?」と聞いたあとに、
給仕が答えたのが、この有名なフレーズです。


「We haven't had that split here since 1969.」


カリフォルニアは、アメリカの中でもクレイジーな州だそうです。
同性愛が容易に受け入れられるような土地です。
その中にシリコンバレーがあります。


この土地をホテル名につけたというのは、そういうことだったわけです。


このホテルでは、みんな贅沢三昧に暮らしている。
(They livin' it up the Hotel california. )


ここのみんなは、自分の意志で囚われの身になったという。
(We are all just prisoners here of own device.)



気がつくと俺は出口を求めて走り回っていた。
「投資したマネーを元の場所に戻さなければ。」
(I had to find the passage back to the place I was before.)


すると夜警は言った。
「チェックアウトは自由ですが、ここを立ち去ることはできませんよ。」
(You can checkout any time you like,but you can never leave.)



あなたの事業計画はどうでしょうか。
ここまで投資家を酔わすことができれば上出来です。


ホテルカリフォルニアは歌詞でグラミー賞を取った訳ではありません。
起業家も文章で投資家を説き伏せてはならないのです。

彼らの音自体が、今までにない、聴衆を酔わせるものだったのです。


松永氏は講義アジェンダを組み立てる中で、この楽曲の素晴らしさをこう分析しました。



■メロディ・ラインの強い独創性

「何かどっかで聞いたことあるな」とか、
「これってあの昔のヒット曲のパクリじゃん」などの時々感じる陳腐感や、
そうかといって、あまりに前衛的で理解困難でもない。
「受け入れ易い強い個性」を感じる訳です。


これをビジネスでいうと、「コア」にあたります。
「お前のビジネス、何が売りなの?、面白いの?」の質問が出る間もなく、
即答できるくらいのものが起業時に欲しいわけです。



■いろいろなルーツ要素をもつ楽曲アレンジ

よく聴くと、ロック、レゲイ、バラッド、ポップス、ラップ的要素、などが巧みに組み込まれています。
それが結果として、ハードロックでありビートルズでもあるあの印象を醸し出しています。

そして、これをビジネスにトランスレートすると「ビジネスモデル」ということになるでしょう。
つまり「どう売るかの方法」の建付けで「売れ方・儲かり方」が違ってくるわけです。



■完成度の高いリズムパターン。

早くも遅くもないないあのリズム・パターンが全体の完成度を高めています。
ビジネスで云えば、「技術、客先、ビジネス・モデル、投入リソースの種類と量、市場規模と事業規模」がバランス良く、違和感なく、整合性をもってまとまっています。


「儲かるポテンシャルは分るが、そこまで初期投資に金が掛かって大丈夫か?」
「なんで、その事業内容にこのユーザー・ターゲットなの」

なんていうのは、各事業要素が良くても全体的に何かが変ということです。
そして、最悪、経営センスを疑われかねません。


こういった全体観をきちんと整理できたとき、起業家は投資家をホテルカリフォルニアの客のように酔わせることができるということになります。


ロックミュージシャンは、楽曲をもって聴衆にコミュニケートするのに対し、起業家が投資家とコミュニケートできる手段は、事業計画書です。


その建付けを10項目に分解し、それぞれの注意点をあげていきます。


1.executive summary

投資家は、事業家が要素を積み上げていくのと対照的に、結論を知りたがりますから、ここで、以降の2-10を1行でサマライズします。



2.会社理念

投資家はモラルハザードを嫌がる生き物です。「金が儲かるからやる」という前に、「社会へ寄与」を建前とします。
ここでは自分たちの技術、製品、サービスがどのように社会貢献するのかを言及します。



3.会社概要

見た目には事業内容、社歴、役員・従業員のバックグラウンドなどですが、それを通して、「何でお前たちなの?」に答えていきます。

「こういう奴らだったら聞いてやろう」となることです。

事業をやるにふさわしい、経歴や興味、そして執心した経験などをつむぎとります。
これはユーザプロファイルに合致しても有効です。



4.コアの説明

・革新性(おもしろさ、ユーザ効用)
・Why us(自分たちだけが達成可能なのか?)
・他社との比較優位性
・拡張性
・進捗状況(アイデアのみ、プロトタイプが既にある)



5.ユーザープロファイリング

・誰を相手にするのか?その判断根拠は?

・ターゲット市場(virgin、replacement)
 ※バージン市場においても、ユーザーはお金と時間が有限であることから、広義においては変形したリプレースメント市場であることに注意
 ※リプレイス市場の方が事業化の可能性が高い。

・拡張性(ユーザが増えるのか?、ユーザの使用が増えるのか?)



6.市場の説明


・市場規模(単価×数量/過去5年以上)の今後5-10年の予測
・競合他社状況
・自分たちのシェア想定とその根拠背景


オリジナルのテーラーメイド分析により、「それで何がいいたいのか」を明確にします。
需要予測には、「なぜそうなるか」というメカニズム分析による根拠づけが必要です。
直接的な需要以外にも、その背景となる間接的な需要を最低2段階は遡ります。
そして事後検証できるような形をとります。
市場予測の結果が違うときに、なぜそうなったかを振り返ることで、次の市場予測に活かせるからです。
過去5年以上の材料が必要な理由は、通常40ヶ月程度の景気サイクルの影響を十分考慮出来るからになります。



7.ビジネスモデル

・「誰から、どのレベルのマージンを、どのようにとるか?」
・価格設定とその合理的根拠
・競合(類似)他社のやり方との比較



8.アクション・プラン(実行性&実効性)

実は全体観のなかでは最も重要な項目となります。
なぜならほとんどの起業が「絵に描いた美しすぎる餅」となっており、実効性のレベルが「関が原勝敗の肝」となりえることが多いからです。

たとえば、営業マンの増員がシナリオに織込まれている場合、「どうやって優秀な営業マンを集めるのか、何を担保に優秀な営業マンがそのベンチャー会社に来るのか」などのディスカッションが必要となります。



<売上目標を実現するために>


・誰がどのリソースを使うのか。
・必要リソース策(人と設備)とその確保策
 ※「機械」と違い「人」は見えづらいリソースである。

ここでも事後検証できるプランにします。理由は「市場予測」と同じくです。



9.収益および財務モデルと資金需要

・需要予測とシェア想定から導出されるPL、BS、CFS
・そこから算出される必要資金額
・予想直近数年は四半期ベース
・進捗フェース・ステージ毎の資金需要の明示



10.バリュエーションと資金調達単価

・過去5年以上の年毎の競合(類似企業)のPSR,PBR,PER,EV/EBITDA
・DCF算出値を考慮。未上場及びマイノリティディスカウントを折り込み、時価総額を。
・各フェーズ(ステージ)での時価総額を基準にファイナンス要望を行う
・上場時の予想時価総額から、投資家への年率換算リターン率を想定する。
・上場しても経営権を確保できるような、単価・株数設定を。



以上が投資家向け事業計画書となります。
ちゃんと書かれていれば、読んだ者はみな、自らの意思で起業家の囚われの身となります。

パワーポイントで作られたこの資料には、図と表とポンチ絵しかのっておらず、文章は載っていません。
文章はエブゼクティブサマリーと、各ページの「メッセージライン」のみ、かろうじて存在する。
プレゼンだからといって「クチ」で伝えようとしてはなりません。


何が一番伝えたいのか、結論を各ページのタイトルにて表現します。
そうすれば、「メッセージライン」は自然に、インパクトのあるコメントになるはずです。
これは、1ページ1分のプレゼンにだって、全体で数分のプレゼンにだって、対応できることになります。


ホテルカリフォルニアが、一発で聴衆を魅了したように、結論を急ぐ投資家を一発で魅了するには、「あなたの事業計画書は、つまらない歌詞で勝負してはならない」のです。


最後の打ち上げで、「この他に、経営者が学ぶべきものは何ですか。」と松永氏に質問しました。

「ひとの問題だ」と彼は答えました。

そもそも誰とビジネスするか。どういうチームワークで、どういうコミュニケートをすればいいか。という問題です。



ビートルズに、ジョンレノン、ポールマッカートニー、どちらかかけていれば、ビートルズはなかった。
イーグルスに、グレンフライ、ドンヘンリー、どちらかかけていれば、イーグルスはなかった。
ウォズニアックとジョブズ。どちらかかけていれば、アップルがなかったように。


あなたがやっている事業に、エクイティストーリーをマジで話せる仲間がいますでしょうか。
あなたがやろうとしている事業に、エクイティストーリーをマジで話そうと思う仲間がいますでしょうか。


「NO」であれば、今すぐ語り合うにも及ばす、いまから解散した方が得策になります。
「音楽的な方向性の相違」とでも言って別れましょう。
もう私たちにはつまらない議論をしている時間はないのです。


(松永良輔氏「ホテルカリフォルニアに学ぶビジネス・プラニング」の講義録 )





【1話から読める20話完結のステップメール】
「なんとかサービスはまわっているんだけど、劇的に利用者が伸びない」
「リアルのビジネスをしているんだけど、ITを駆使して集客を改善したい」