聞き馴染みのあるロックスターのほとんどは、苦しい生活をしているそうです。
羽振りがいいうちにやってしまおうと生活レベルを一気にあげてしまい、いざヒットに恵まれなくなると、一度あげた生活レベルは下げられない。まさにキャッシュフローの観念が弱いそうです。


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多くの起業家もロックスターと同じ。投資家から見るとそう見えるようです。
インターネットの世界はスピードが勝負ですから、起業家は、会社を急速にでかくしようとします。しかし、一旦ミスると、取り返しのつかない目に会います。







昨年末にセコイアキャピタルは、投資先のCEOたちを呼んで、「すぐに人を切れ、現実をみろ」という警告をしました。
資金繰りにうまくいかなくなってから人を減らし始めても、その分の収入が減り、また人を減らさなくてはならないというスパイラルになるのだと。


さて、現実、つまり現金(キャッシュ)について見ていきましょう。
ビジネスの究極のゴールとは、十分な再投資資金を自社で賄ったあとのキャッシュ収入を極大化することになります。
十分な再投資がなければ、ビジネスは次にまわりませんから、企業は必ずここに予算をかけ、なおかつ現金が手元にあるように努力をします。


企業の活動は、Fund Sources(負債+株主資本)をFund Uses(現金/現金相当分)に変え、ASSETS(資産)をつくり、そこから商品を売ってCash化し、株主資本に返すという連続です。

まず起業家は、やろうとしている事業が存続するために、いつまでに、どれだけの資金が必要かを算定し、資金あつめをします。その総額は予想されるマイナスのキャッシュフローの累積の額ですが、最初からその総額が必要ではないので何回かにわけて行うことも視野にいれます。


投資家は、当分の間キャッシュ収入が無いことを前提としている分、その企業の事業計画と資金計画の説得力がカギとなり、

・需要予測
・売上推移
・利益推移
・キャッシュフロー推移

をもとに、その投資が妥当であるか決めます。


キャッシュフローは、ある期間(月、年)のリアルな預金残高の増減を表し、3つの視点に分解されます。3つの合算がいわゆるキャッシュフローですが、合算だけで評価すれば良い訳ではなく、個別に問題解決をする必要があります。


1.営業キッシュフロー
利益と償却分とネットワーキングキャピタルキャッシュフロー(NWCCF)の総和になります。
リアルの預金残高に基づくといってもキャッシュフローは、正確には、将来価値を現在価値に割り戻す必要があるので、下記のような調整になります。
償却分はすでに払ってしまっている非キャッシュコストで、利益算出のときにPL上で差し引かれているため、足し直します。
NWCCF増減は、売り掛けと在庫の減少と買い掛けの増加での合算値差です。売り掛け金が多いと実際にコストを払い込んでいるため、キャッシュフローを圧迫し、買い掛け金が多いと将来使うお金を今に活かしていることを意味します。
営業キャッシュフローをよくするには、利益を上げるほかに、在庫を少なく、売り掛けの回収期間を短く、買い掛けをなるべく遅くします。


2.投資キャッシュフロー
設備投資や有価証券投資に要する現金支払いと資産売却による収入の差し引きになります。
この1と2の総和が、フリーキャッシュフローといい、事業活動で生み出すキャッシュフローです。
フリーというのは企業が手元に残った自由のお金という意味です。基本的にこのフリーキャッシュフローでその企業の真価が問われます。フリーキャッシュフローがプラスである限り、あとは借金や配当を返し続ければいいということになります。


3.財務キャッシュフロー
企業の財務活動、つまり、借入の実行や返済、社債の発行、増資、などの収支です。
企業はこの総和の増減を想定して、常に預金をプラスにしながら、生き延びていくことになります。
バランスシートでの経営指標は、いかに少ない資金で高利益の事業をまわすかという視点になり、キャッシュフロー計算書では、いかに効率よく残高を維持しながらも、お金を働かせるかという概念になります。さらにいえば、どれだけの現金資金を稼ぎ出せるかということを重視しています。



キャッシュフロー上の問題解析は、以下になります。

・売り上げ規模と単価
・リソース投入規模と単価
・支払い期間と回収期間


従来の損益計算書では、発生主義に基づいて作成されるもので、たとえば、資産を購入してもそれが稼働しない限りPL上の数字が動かず、利益が黒字でも資金が枯渇するというように、資金の流れが説明できませんでした。

その他に非キャッシュ・コストとして計上しなければ、いたずらに利益をインフレさせてしまうものとして、R&D、株、在庫などの、評価減(write-down)や減損(write-off)などがあります。
本当に儲かる事業への投資や評価、本当に儲かる施策の判断と実行、そして財務安定化といった経営力の強化が、キャッシュフロー経営の目的です。



最後に、ネット事業においての本議題につっこんでいきます。
ネット事業のメリットは、ひとつのプロダクト、サービスを派生させていくことが容易なところです。占いサイトなら、さまざまな占いサイトの量産化、システムならば、業態別のシステムテンプレート化、などなど、1つのお菓子を作るのに莫大なコストが必要なのとは違うところです。


しかしながらデメリットは、1事業のサイクルが短いところです。
ネット企業は、スピーディーに事業を生み出し続けなければなりません。
また全ての事業が固く当たるわけではなく、メガヒットは一般のコンテンツビジネスのように確率論と言えます。

投資キャッシュフローでいう、十分な再投資は、ひとつのサービスを云々ということもさることながら、その企業のコアを活かした次のサービス展開にあてること他なりません。

ひとつのビジネスが、そのビジネスサイクルの中で、軌道に乗る、あるいは上がらないと見込まれた時点で、どういうビジネスを矢継ぎ早にしかけるといった長期かつ複数の事業群のストーリーを描くことが重要になってきます。
このように複数の事業をまわしながら、ヒットを生み続け、企業価値をあげるシナリオを、エクイティストーリーといいます。

次は企業価値について学びまずが、この発展存続のためのエクイティストーリーを組み立てることが、我々の向かう目標となります。今のビジネスだけで、なんとなくキャッシュフローがまわっているだけで満足しているならば、本講義は必要ないかもしれません。それはある確率論でどこかの企業は小さく生き残るからです。


しかしながら、私たちは、日々うつりゆくユーザがハッピーになることを、どんどんしかけていかなければ存在意義がありません。次なる挑戦をするために、次なる資金調達をするために、今の事業を発展、あるいはイグジットさせるために、キャッシュフローの考え方が必要なのです。

ひとつの事業を数年単位で見るのが今までのやり方ならば、いま預かっているお金を、どう増やすか、どこに投下するのか、毎月定例で、預金残高を見ながら、複数の収益構造の連合を見て行く方が、いまのネット事業のスタイルにあっているのです。



さて、最初のロックスターの話にもどしましょう。
ロックスターは一発あてると、似たような曲があたると錯覚して、いままでに書き留めていた曲を掘り起こせばいいと勘違い、いろいろな贅沢をして、肝心な曲作りに邁進しなくなります。


それと同様に、起業家は、最初はお金がないですから、倹約をして、いろいろな事業アイデアを模索してなんとか生き延びのびます。少しうまく行き出したら、あとは人を増やせばいいと錯覚、オフィスもいいところに、間接部門人材も投入してしまいます。ネットのムコウの消費者たち、またその人を相手にする企業は、あなたにアナザーストーリーを求めているのに、あなたは、組織力を高めようとばかり注力するのです。


1つの事業がうまく行き出して次にやることは、人を入れることではなく、次の事業を作り出すこと、それはロックスターが、自宅スタジオを作ることではなく、次の作品を出すことと同じです。
ネットの事業は、内製ではなくてもできます。外注で利益を圧迫するようなビジネスだったら、やらない方がいいです。
その事業が大きくばけて、利益率を上げたい時になってはじめて、そして、それが人を入れることで解決するならば、人を雇えばいいのです。


セコイアキャピタルの警笛の「人を切れ」の裏側には、「いかに多くの人を無駄遣いしているか」という今のネットビジネスの課題を示唆しているかのようです。




※松永良輔氏「キャッシュ・フローと資金計画」の講義録



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「なんとかサービスはまわっているんだけど、劇的に利用者が伸びない」
「リアルのビジネスをしているんだけど、ITを駆使して集客を改善したい」